「宇宙船なんて特別な乗り物が必要なうちは,いつまで経っても人は自分の足で歩き出すことができないのとおんなじだ。ずっと揺りかごから出られないまま。む,ちゃんと名前をあげておこうね。『地球は人類にとって揺りかごだ。だが,揺りかごで一生を過ごす者はいない』宇宙旅行の父,コンスタンチン・ツィオルコフスキーの言葉さ」。
quote:ブッシュ政権が月面基地,火星有人探査と平行してもうひとつ開発を進めている,宇宙行きのエレベーターの技術的な問題がほとんどクリアされ,15年後には実現できる見通しだという。宇宙へのエレベーターは100年以上前にアーサー・クラークの小説にも登場したが,最近になって軽くて強い素材であるカーボンナノチューブが開発され,見通しが開けた。だがこの見通しを疑問視する声もあり,実用化は我々の曾孫の時代になるという意見もある。
「エレベーターで宇宙へ行けるってことは,乗っちゃえばあとは寝てればいいってことかな?」「日本の端から端まで新幹線で移動するのだって,何時間もかかるんだよ。宇宙まですぐに着くわけがないぢゃないか」「そりゃそうか」「んぢゃあ何度も寝たり,食事をしたりしなきゃいけないってこと?」「普通に考えたらそうなるだろうね」「どうせ何日もかかるなら,宇宙船とかで行けばいいような気がしてきたナ」「それは云わない約束だよ」「そんな約束してないよ」「してるんだよ,みんな。まぁそれはともかく,エレベーターで行けるってことはかなり自由度が高いんだ。それはわかるだろ?」「たとえば?」「たとえば,そうだな。自転車に乗って行ける。実際に宇宙で自転車に乗れる場所があるかどうかは関係ないヨ。持って行けるということが大事なんだ」「そうかな?」「まぁそういうことにしようヨ。どんな服を着ててもいい。ぷよぷよのコスプレでもいいんだよ」「ぃゃ,たぶんあんたの頭のなかにあるのはぷよぷよのコスプレぢゃないと思うけどね」。
「宇宙船だと『アイ・コピー』とか返事しなくちゃいけないような気がするけど,エレベーターならなんでもよさそうだろ?」「そぉ?」「そしていちばん大事なのはね,エレベーターなら自分が向かっている方向がわかるってことサ。宇宙飛行士がネ,上も下もない宇宙空間でいちばん知りたいのは方角なんだって。エレベーターなら,向かっている方向が一直線でわかる。戻り道も一直線でわかる」「…だから,エレベーターを求めるのは必然?」「うん,そのとき人間は初めて,揺りかごから歩き出せるんだね」「…でもな。そう考えると,それが実現するのはホントに曾孫の時代になりそうだね」。(via. 『プラネテス』)
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